菌な人をご紹介[Autumn 2023]
世界には私たちが知らない、ふしぎな菌が数多く存在しています。
そんな菌を愛する変形菌ハンターによる、美しい世界をご紹介。
単細胞は下等生物なのでしょうか
変形菌の特徴のひとつは単細胞生物だということ。多細胞生物はさまざまな細胞に分化後に多くのパーツを形成して、一つの個体として生きています。中央集権的な多細胞生物は、他者を圧倒する力で進化をしてきたのかもしれませんが、変形菌はそのような生存戦略をとりませんでした。一つの細胞が巨大化した変形菌には司令塔がありません。異物に接したところが、「美味しい!」とか「危ない!」と個別に判断して全体の行動に集約していきます。一部が「嫌なもの」と判断すると全体が引き、別の変形体に接触すると、争わずに左右に離れます。「危なかったら逃げろ!」が数億年を生き抜いてきた変形菌の知恵なのかもしれません。
コケジクホコリ
雨が降り続いた夏、苔むしたコンクリートの壁に黄色い変形体が出現します。やがて変形体は苔の葉先で黄色い子実体に変化していきます。まるでフルーツの実のような可愛らしさです。黄色い子実体は茶色から濃紺と変化して、最後には美しい構造色の子実体へと成熟します。苔の上にあるこのコケジクホコリは、直径0.5ミリ程の極小変形菌です。
黄色い子実体は緑の苔の上で目立ちますが、半日ほど経過して色合いが暗色に変わるとほぼ見つけることは不可能です。タイミングが合わないと、出会うことができない稀な変形菌なのです。
文章・写真ご提供はこの方
引地 美喜子 さん
十和田奥入瀬・八甲田山麓をフィールドに、早春から晩秋まで変形菌を探して山野をかけ巡る自称変形菌ハンター