粘菌の世界~森の片隅の、小さな思考者たち[Spring 2026]

   2026/05/08

世界には私たちが知らない、ふしぎな菌が数多く存在しています。
そんな菌を愛する変形菌ハンターによる、美しい世界をご紹介。

ワックスも作ってしまう変形菌

 変形菌の表面には、多種多様な物質が存在します。ホネホコリの固い卵の殻のような膜もあれば、ルリホコリのように数ミクロンのごく薄い膜が瑠璃色の構造色を見せてくれるものもあります。キラボシカタホコリの表面は金平糖のような結晶で覆われていますし、キララホコリには星の形をした金色のカルシウムが張り付いています。

 そのなかでも特に変わり者は、ロウ(Wax)を排出するミヤザキロウホコリとロウホコリです。融点が低いので暖かいと溶けてしまいますが、何故かロウ物質をまとっているのです。変形体のなかで、どのような理由で油脂状の有機物質を作り出して最終的に排出してしまうのかは謎です。

 1000種の変形菌の中で、わずか2種だけのロウホコリ属ですが、今後の変形菌の進化を担う物質を作り始めているのかもしれません。

ミヤザキロウホコリ

 刻一刻と姿を変えていく変形菌との出会いは、まさに一期一会です。よく見かける種類であっても、「今だから出会えた」と感じる瞬間が多々あります。そんな絶妙なタイミングで姿を見せてくれた変形菌には「よくぞこの状態で待っていてくれた」と感動を覚えるのです。

 数年前の夏、今まで目にしたことのない変形菌に出会いました。その個体は、後に「ミヤザキロウホコリ」という非常に希少な種であるとわかりました。黄土色、紫、濃紺が混じりあい真珠光沢があります。子実体の所々に「ろう」を含んだその質感は、独特の凹凸あり、派手さはありませんが落ち着いた美しさが魅力的でした。

 その2年後の夏に以前とは別の場所で奇跡的に再開することもできました。次に出会うことはあるのか、もう2度と出会うことはないのか。そんな一期一会が楽しくてなりません。


引地 美喜子 さん

十和田奥入瀬・八甲田山麓をフィールドに、早春から晩秋まで変形菌を探して山野をかけ巡る自称変形菌ハンター

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